ヒダマルの読書日記。

乱読ッカーなヒダマルが読んだ本の感想文。小説は分析もします。

成長へ、優しさを贈る。 『アーモンド入りチョコレートのワルツ』


著者:森絵都
発刊:角川文庫
頁数:209頁
発行:2005年6月25日
ジャンル:短編集

※この記事は重大なネタバレを含みます。

 

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 児童文学の大家・森絵都さんが、1996年に刊行した単行本に修正・加筆した一冊。
 それぞれの短編がクラシックのピアノ曲をモチーフにしており、音楽が好きな方にはたまらないかもしれません(ヒダマルはどれも聞いたことない……)


 1991年『リズム』でデビュー後、『つきのふね』『カラフル』など多くの児童文学を発表してきた作家さんですが……、

 最大の特徴は、作品の「優しさ」にあると思います。


 ぜったい、ハッピーエンドなんです。

 

 

「子供は眠る」
ロベルト・シューマン子供の情景〉より

 短編は、スピードが命。

 長編であれば世界観や状況の描写に30頁くらいは費やせるところを、少なくとも3頁程度で伝えきる必要があります。
 もちろん、読者の興味を引く形で。

 

子供の情景』の冒頭は、主人公の恭が、いとこの「章くん」の別荘を目指して出発するシーン。

 毎年恒例、いつもの夏の始まりで、その別荘では「章くん」が特別な存在であることを、ジャスト3頁できれいに伝えてくれます。

 


 取り上げているのは、成長していく子どもたちの、微妙な確執。

 海と別荘を舞台に、一年に一度集まる親戚の子どもたち、仲が良かったはずの彼らが、その夏だけはどこかが違う。

 


 変わっていないようで、変わっている。

 友達でいられるようで、いられない。

 けれどラストのどんちゃん騒ぎと、偉そうに振る舞っていた章くんの意外な一面。

 

「いつもの夏」の終わりを締めくくるそんな優しさに、ヒダマルなんかはほろりときちゃうのです。

 夏だ、夏だとおもうのです。

 

 

「彼女のアリア」
J・S・バッハ〈ゴルドベルグ変奏曲〉より

 卒業式の朝、「ごめんね」とだけ記された手紙から始まる、短編恋愛小説。


 不眠症に悩まされる中学三年生男子が、同じく不眠症・しかもその他もろもろ様々色々波乱万丈な問題を抱える女子「藤谷」と出会い、心を寄せていくお話、なのですが……。

 藤谷のとある嘘から、関係は破綻します。

 

 

 クライマックスは、冒頭に戻って卒業式当日。

 式の最中も、担任の贈る言葉も、クラスメイトの涙も、どこか遠い世界のようで現実味のなかった主人公を動かしたのは、藤谷の奏でる〈ゴルドベルグ変奏曲〉の音色でした。


 恋を自覚し、卒業を自覚する……。

 別れ、卒業、桜のつぼみ、そんな一コマに、ヒダマルなんかはこう思うのです。


 ……恋愛小説、書いたことねぇや。

 

 

「アーモンド入りチョコレートのワルツ」
エリック・サティ〈童話音楽の献立表〉より

 これもまた、導入部分が至高。

 主人公の奈緒がピアノのレッスン教室に通うことになり、「絹子先生」との出会いから始まるのですが、

 もうね、この絹子先生のキャラ立ちの良さたるや。

 

 どうしてもレッスンをする気にならないため、奈緒が指に包帯を巻いて怪我をしたことにすると、「じゃあ、今日はレッスンの代わりに、宇宙人のお話をしましょう」と即座に提案するのです。

 しかも、「喜びを隠し切れない顔」で。

 

 

 そんな絹子先生と、親友の君絵と、そこに現れた謎の人物・サティのおじさん(笑顔がエリック・サティそっくり)


 そして絹子先生とサティのおじさんの不和、君絵のサティのおじさんへの恋心(?)……。

 大人たちの関係が変わって行くのを、近くで見ていることしかできない子どもたちの、痛み。

 

 

 最後の夜、「アーモンド入りチョコレートのように生きていきなさい」と伝えて去ったサティのおじさん、彼の生き様を見ていると、ヒダマルなんかはこう思うのです。


 サティの曲みたいに、できれば楽しく生きたいと。

 

 

まとめ。

『カラフル』『宇宙のみなしご』などの名作に、中学生のヒダマルは出会いました。

 あの頃に出会えて、本当によかった。


かがみの孤城』でも述べましたが、「子ども向けの作品」と「子どもの為の作品」は似て非なるものです。
 それはもう、間違いなく、非なるものです。

 

hidamarudokusyo.hatenadiary.com

 

 森絵都さんの作品、切なくも優しいハッピーエンドの作品群は、文句なしで後者の部類。


 大人として、本好きとして、すべての中学生に読んでほしい本のひとつです。
(なんて言っちゃうと、「子供の情景」の章くんみたいな傲慢さになっちゃうかも……)